感染症にかかってしまわない為の配慮ブログ:06 4 18
「ごま漬けに酢は入れんのかい?」
それは母親の認知症を決定づけた一言だった。
お姉さんやいもうとからは、
最近母親が少しおかしいと聞いていたが、
遠く離れたわしは、あまり気にもとめていなかった。
九十九里の名産であるごま漬けは、
小指程度の小さな背黒イワシを丸ごと、
頭と内臓をひとさし指でキュッと取って、
塩水に一晩、酢水に一晩つけ…
一段ずつ、きれいに並べ、
ゆず、はりしょうが、ごま、とうがらしの輪切と順番に振り、
一段、又一段と、気の遠くなるような作業を繰り返し…
そして
しばらく置くと、
娘もお年寄りも骨ごと食べれる
イワシのごま漬けの完成となる。
母親の味はどんな有名な店のものよりもおいしく、
母親自身もそれをわかっていた。
だからわしが実家へ帰るからというと
必ず手土産にと作ってくれておいた。
いつ頃からか少し味がかわってきて…
ん?何かが違うという感じが、現実のものとなったのだ。
50年やってきた当たり前が、母親の記憶から消えた。
たばこの自動販売機に古い500円札を入れて
入らないと泣きだしそうになったり、
お札に火をつけて燃やしてしまったり、
母親の中で一体何が起きているんだろう?
親父が亡くなって七年、
独りで淋しかったんだね…ごめんね…
今はまだ、
母親の中にわし達はいるんだろうか?
わし達の笑顔は母親に届いているんだろうか?
わし達の想いは…
忘れんぼうになった母親は
「ありがと」「ありがと」とそればかり…
もういいよ。
母親のシワシワになった笑顔の中に
わし達がいつまでもいられますように…
「ありがとう」は、わし達の方だよ。
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■川元弓子
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川元弓子